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2-62 すれ違う想い

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もう二人の間に、言葉は不要だった。

有芯は朝子を強く抱きしめるとベッドに横たえ、服を脱がせながら身体のあちこちに口付けた。頬骨部分にできた痣にも、強く掴まれてできた乳房の赤い痕にも、怪我をした膝にも包帯の上からキスをした。

有芯は朝子をいたわるように両腕で身体を包むとそっと髪を撫で、二人は一つになった。2人の交わす吐息が次第に甘く激しくなり、その快感に比例して胸の痛みが増すことに有芯は気付いた。

―――初めてだよこんなの。朝子・・・苦しいくらいお前を愛してる―――。

有芯にはそれを口に出して伝えることができなかった。

それでも、彼の身体は正直にその気持ちを物語った。

激しく想いをぶつけてくる彼の身体の下で、そっと優しく抱き締めてくる彼の腕の中で、朝子は有芯の深い愛情に甘く溺れ、我を忘れそうになりながら彼の腕を掴みその身体を求めた。

息を切らせながら有芯を見上げ、朝子は思った。有芯―――お腹の子の、父親。

“できれば早くいい人をみつけて、本当に自分と血の繋がった家族を設けてほしいと私は思っているの”

彼の母親の言葉を思い出すと、涙が溢れた。

ごめんなさい・・・有芯のお母さん。私・・・やっぱり有芯を愛しています。彼の子供を産んで、有芯とずっと一緒にいたい。

人妻の私なんかじゃ、とてもいい人なんて言えないけれど・・・それでも許してくれますか?

「有芯・・・有、芯・・・」

何度も自分の名前を呼ぶ朝子を、有芯は動きを止めずに見つめた。「・・・なーに?」

「・・・有芯」

うっすらと笑ったその目には涙が滲んでいる。有芯は低く呻くと苦笑した。

「・・・やめろよ、その顔・・・いきそうになる・・・!」

「じゃ・・・ずっとこの顔でいる」

「ある意味、拷問だ」

「バカ」

有芯は優しく微笑み、涙を流しながら自分を受け入れている朝子にキスをし思った。

やっぱり俺が苦しんでいる間、朝子も同じように苦しんでいたんだ。

朝子は優しいから・・・俺が苦しみ続ける限り、俺と同じように苦しむのだろう。

俺の方から離れていかなければ、朝子はわだかまった俺や周囲への愛情をもてあまし混乱するだけなのだ。

朝子のために・・・俺は、朝子を捨てて歩いていこう。

朝子を心配させないように。

朝子が安心して、家族と歩いていけるように。

朝子を二度と傷つけないように。

朝子が・・・心から幸せに笑えるように。

それが・・・あの時空港で俺を生かしてくれた朝子のために、俺が唯一できること―――。

有芯は快楽に震えながら、やがて確実に来る別れを思い、募る切なさに朝子を強く腕の中に抱き締めていた。




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